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評価:
Amazonおすすめ度:
語り継がれるべき女性の一生
横浜娼婦な証言譚
どうか偏見なく観て欲しい。陰の戦後史に生き抜いた者たちの信念と魂の物語。秀作!
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2005年
監督:中村高寛
出演:永登元次郎、五大路子、杉山義法、清水節子、広岡敬一、団鬼六、山崎洋子、大野慶人、福寿祁久雄、松葉好市、森日出夫
メリーさんの存在を初めて知ったのはいつだったろう。やはり中島らも著『白いメリーさん』だろうか。いや、でもそれ以前から知っていた気がする。それはともかく、どの街にもちょっと気になる人っているもんですよね。私が利用する駅でもでっぷりと太り、しかも禿げちらかしたオカマさんと稀に遭遇し、ギョッとしたりするものです。これが誇張なしで『ピンクフラミンゴ』のディバインそっくりなんですね。他にもぶつぶつ独り言を呟きながら、四六時中とある交差点に佇む迷彩服を着た女性(しかも丸刈り)もいます。おそらく私以外にも気になっている方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
そんな“気になるあの人業界”で横浜のメリーさんは群を抜く知名度を誇っていた、と。私ですら知っていたくらいですから。ちなみにこれぐらい白塗りのおばあさんって私も見たことがあります。車を運転してる時にすれ違ったんですね。やっぱり見慣れないのでギョッとした覚えがあります。名古屋駅の西口にも80歳近い現役の娼婦が立っているなんて噂を聞いたことがありますし、案外、全国津々浦々メリーさん的な方っているのかもしれない。そんな中である意味、横浜のメリーさんは周囲の人々に恵まれていたんですね。シャンソン歌手の永登元次郎さんをはじめ、クリーニング屋の奥さん、美容院の奥さん、根岸家の座敷芸者さん、等々。
「メリーさんが使ったカップはイヤだ」なんてクレームを受けた喫茶店が、メリーさん専用のカップを用意しただなんて粋じゃありませんか。お茶に誘った化粧品屋の奥さんは頑なにメリーさんから拒まれた、それをご主人に話すと、ご主人はこう言ったそうです。「娼婦の仲間と思われないように、メリーさんが気を利かせてくれたんだ」と。勿論それはご主人の勝手な推測なんだろけど、施しを嫌う、根岸家のおねえさん曰くプライドの高いメリーさんらしいエピソードだと思う。
“作品”としてはまず、題材がぶっちぎりで面白い。尚且つ、その見せ方、構成がこれまた素晴らしい。記録映画でこんなカタルシスを得られるとは。この“忽然と姿を消した人”を追う展開っていうのは、例えば宮部みゆきさんの『火車』と似ていなくもない。いや無論、媒体も違えばフィクションとノン・フィクションという大きな違いはあるのですが、それぐらいによく出来た構成なんですよね。横浜という複雑な事情を抱えた街とそこに生きる、生きた人々、伊勢崎町の戦後史を具現化した象徴としてのメリーさん、きっと私なんかには到底想像もつかない、ここでは触れられなかった業も背負っているのかもしれない。しかしながら、一体誰に彼女の生き様を否定することが出来るだろうか。泥臭く、しかし美しく生きたメリーさん。明日から我が街のディバインにも優しい眼差しを送りたいと思います。