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評価:
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2007年
監督:仰木豊
脚本:イケタニマサオ
出演:小沢仁志、松浦祐也、浅川稚広、あじゃ、渋川清彦
『
ヤクザタクシー』(監督:黒沢清)なんてのもありましたが、異化効果を狙った任侠モノですね。一応、渋谷の劇場で2週間だけ公開されたようですが、いわゆるVシネです。
15年の刑期を終えた浦島太郎状態(ってそんなことあり得ないと思うのですが)のヤクザ準次(小沢仁志)は、借金のカタに押さえられた雑居ビルのミニFM局“FM89.3MHz”でシノギを命じられる。それも実家が電気屋だからという理由で。(しかもこの設定が生かされることは一度もない)有無を言わさぬ親分の命に従い、渋々歌舞伎町に足を運ぶ準次だったが、そこには萌え系インディーズアイドルゆかタン(浅川稚広)が孤軍奮闘していた。ゆかタンによれば、そのミニFM局は既に存亡の危機に瀕していると言う。気乗りのしない準次だったがある時、成り行き上DJを任される羽目に陥り……。
って感じの導入部なんですが、構造そのものは『ヤクザタクシー』なんかと同じですね。但しここに歌舞伎町と秋葉原という、同じ東京でありながら互いにベクトルの違うディープな文化摩擦が予測され、期待感は否応にも高まります。しかしこれが残念ながら拍子抜け。というのも、DJゆかタンは確かに萌え系の片鱗を覗かせるものの、オフのゆかタンは至って普通の女性なんです。ですから仁義を重んじるヤクザの化石、準次とも比較的まともなコミュニケーションが成立してしまっている。昼間はOL相手に700円の弁当とか売ってますし。せっかくオリジナルソングまで用意しているわけですから、やはりここは路上ライブとかでオタク相手にCD売りつけ、日銭を稼ぐ涙ぐましいインディーズアイドルとしてのあるべき姿が見たかった。
メイド喫茶で献身的に働くあの娘が実はネカフェ難民だった、みたいな余計なリアリティーが本作の持ち味であるコメディーとしての“軽さ”を霧散させているんですね。但し、そのリアル志向がいい結果を生んだ好例として、番組のスポンサーにファッションヘルスやカジノ、ポルノDVD店だのといったいかにも歌舞伎町の記号を持ち込んだのは評価すべきでしょう。
それにしても、ゆかタンの目的がよく判らないんですよね。本格的にアイドルとしてメジャーデビューしたいのか、あるいはミニFMという愛着ある場所を守っていくだけで満足なのか。まあ、おそらく後者なんでしょうが、だから余計にその“萌え”があくまでパフォーマンス、すなわちビジネスライクにしか映らず、中盤以降ではほとんど蔑ろにされる始末。きっと製作者陣営もホントは誰も興味がないし、特別なリサーチもされていなかったのでしょう。故に記号どまりの“萌え”に過ぎず、その必要性すら感じられないままの放置状態。
その代わりと言ってはなんですが、準次の娘(あじゃ←すごいお顔ですね、この方)の彼氏ナルシー(渋川清彦)が見事その期待に応えてくれました。ナルシーはいわゆるクラブDJなわけですが、フランクな口調(って言うかホリが真似するキムタク+ルー大柴風)や不遜な態度がいかにも軽薄ながら決して悪いヤツには映らない、そんな難しい役どころを渋川さんは好演していらしたと思います。全く違う価値観と文化を持つナルシーと準次の掛け合いがなかなか面白いんですよね。まるで『ウルルン滞在記』でも見ているような気分にさせられます。こうした化学反応がゆかタンとの間に起こらなかったのは非常に残念でなりません。
終盤のてんやわんやはお約束として、拳銃が一発しか発射されないヤクザ映画っていうのも珍しいですね。技術的なことで言えば、やたらとブラックアウトが多用されていて、物語のテンポを著しく乱していたのが気になりました。それからチョイ役で山本浩司さんが顔を覗かせているのもなかなか興味深い。なにより小沢仁志さんが唄う「新宿夢鴉」は一聴の価値アリ。完コピしてスナックで披露すれば絶対モテます。
絶対モテます。