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評価:
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監督・佐藤祐市
脚本・古沢良太
出演・小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之
ミステリの基本としてWhodunit(誰が)、Howdunit(どのように)、Whydunit(何故)というものがありますが、本作の場合その分類が困難であり、それだけ特異なミステリということは少なくとも言えそうです。強いて言うなら、目からウロコ系とか?
自殺した(と、警察発表されている)C級アイドル如月ミキ、その死の真相をめぐって密室劇らしい二転三転する議論を、彼女の熱狂的ファンである5人の男たちが戦わせるわけですが、果たしてその着地点がどこにあるのか、とりわけミステリ初心者であればハラハラドキドキさせられることでしょう。
※これよりネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。
冒頭、探偵役として名乗りをあげるハンドルネーム、オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)によって追悼会はその表情を一変させます。そもそもこの追悼会を企画したのが彼であったというのが一つの伏線。彼は如月ミキの死は自殺ではなく、他殺であると自らの調査によって辿り着いた。すなわち追悼会を企画し、目星をつけていた容疑者を炙り出そうと画策していたわけです。
ここから物語はカタストロフィに向かってほぼノンストップ。
設定からも舞台劇がベースとなっていることは明白ですが、ソフトなユーモアと目まぐるしく変わる“クサい人物”、かと思えば明らかにされる彼らの身分(単なる一ファンではないという意味も含めた)が小気味よく展開され、飽きさせることはありません。
『ALWAYS 三丁目の夕日』で一山当てた古沢良太氏の脚本は、これでもかという伏線の配置とその回収はお見事というほかなく、5人によって導かれるもう一つの真相もまた、仮にそうであれば誰もがハッピーとなる結末で、それは作品の雰囲気にもマッチしており、いわゆるアイドルオタクの人畜無害且つ歪曲した“愛”が昇華され、理路整然とした爽快感を与えてくれます。
この理路整然というのはちょっとだけ厭味も含んでおり、確かにこの完成度に文句はないのですが、どうにも釈然としない気持ちがどこかにあるわけです。言うなれば精巧に作られた大仏様なんだけどご利益はなさそう、みたいな……。
その責任はおそらく役者陣には無い。相変わらず香川さんは素晴らしいですし、皆さんご健闘されていたと思います。
となるとやはり演出、佐藤監督にその所在がありそうです。
出演者5人による密室推理劇、という事前情報だけを頭に入れて鑑賞したのですが、ファーストカットは不可解なエレベーターの俯瞰ショット。さらにとあるビルの屋上とおぼしき一室の外観に移り、そこへやって来る家元(小栗旬)。
この脚本だったら普通そんなシーン入れますかね?
室内から絶対に一歩も出ない、という気迫、覚悟が物足りなく感じるわけです。だってそれがこのジャンルの醍醐味でしょうに。回想を絡めた如月ミキの部屋や事件の模様にしたって馬鹿丁寧にご説明いただかなくたって、観客は勝手に想像して楽しむんじゃないでしょうか。
ゴダール並の不親切さ(ってあれは一つの芸ですが)も困りものですが、過剰な親切はときにお節介ともなるわけでして。それが最後の最後でスパークしてしまったわけですね。とは言え、エンタテインメントとしては十分におつりの来る内容であることに異論はありません。ついでながら、画面が終始ものすんごい暗くて観づらかったです。